2019年11月24日日曜日

10年近く暮らしたパリでの生活を断ち切って日本へ帰って行った彼女




 彼女は、最初、日本からスタージュに来ていて、そのまま、パリで現地採用となり、パリで働いている30代半ばの女の子でした。

 独身で、パリで働きながら、それなりにパリでの生活を楽しんで送っているようでした。パリでの新しい流行などにも敏感で、とても上手におしゃれを楽しんでもいました。

 かといって、彼女には、チャラチャラしたところはなく、あれこれと工夫しながら、まめに自炊などもして、堅実な生活を送っていました。

 そんな、彼女には、長く付き合っているフランス人の彼がいました。

 長身でスタイルの良い二人が並んで歩いていると、とてもカッコいい二人でした。

 彼女は、お料理や編み物などもプロ並みに上手だし、優しくて、人当たりも良く、海外暮らしの日本人にありがちな、キツさもなく、おっとりとしていて、いかにも育ちの良さそうな女の子でした。

 年頃で独身の彼女は、このまま、フランスで生活していくのか? ある程度で見切りをつけて、日本へ帰った方がいいのか? ずっと、考えていたことは、知っていました。

 こちらにいたフランス人の彼とは、一緒に暮らしていたわけではありませんでしたが、彼の実家とも行き来をしていて、彼のママに教わったラタトゥイユの作り方・・などを私も教えてもらったりしたこともありました。

 お誕生日には、彼のママからプレゼントをもらって・・などという話を聞いたこともあったので、きっと、彼のママは、とても彼女のことを気に入っていたのだと思います。

 しかし、けっこう、尽くしてしまうタイプの彼女に対して、けっこうなわがままを言っている彼の様子なども聞いてはいました。

 仕事上も、ある転換期を迎えた頃、10年近くいたパリでの生活を断ち切って、彼女は、日本へ帰国することを決めました。彼女は、若い頃に父親を亡くしており、日本にいるお母様とは、特に絆が強かったようで、そんなことも彼女の帰国の理由の一つには、あったのかもしれません。

 しかし、女性が将来の生活を考えるとき、30代半ばに差し掛かる頃というのは、一つの区切りの時期でもあるのかもしれません。

 彼女から、日本へ帰国すると打ち明けられた時、私は、何の不思議も感じませんでした。何か、決定的なことがあったということではないのかもしれませんが、日本人が、パリで暮らしていて、日本に帰りたくなる理由は、たくさんあるでしょうし、その気持ちもよくわかります。

 何しろ、生活を送っていく上での一つ一つにストレスが満載していますから・・。

 すでに、子供がいたりする場合は、また、別でしょうが、無理して、パリで暮らす必要もないのです。

 そんなわけで、彼女は、少しずつ、荷物を処分し始めて、私も、いらなくなった本や、お鍋などの日用品をもらったりしました。

 そして、彼女は、会社の仕事もきっちりカタをつけて、退職し、日本へ帰って行きました。彼女の実家は、横浜だということは、聞いていましたが、特に、連絡先を聞いたりすることもありませんでした。

 彼女が日本へ帰ってしばらくして、彼女の付き合っていた彼が、血相を変えて、突然、会社にやってきました。彼女からは、彼とは、別れたと聞いていたので、そこまで、必死な様子で彼女が元いた会社にやってくるのには、ちょっとビックリしました。

 しかし、誰も、彼女の日本での連絡先を知りませんでした。

 たとえ、知っていたとしても、彼女がそこまでして、彼のことを振り切って日本へ帰ったのに、誰も、彼女の許可なく安易に彼に伝えることはできなかったでしょう。

 以来、彼女は、パリにいる誰にも連絡してくることはなく、日本での彼女の様子を伺い知ることはできません。

 でも、ある程度以上、長く続けてきた生活を変えるというのは、なかなか勇気のいる決断です。よくよく考えて彼女が決めた日本への帰国ですから、きっと、日本での新しい生活を幸せに送っていると思っています。
 













0 コメント: