パリの救急外来とアクシダン・ド・トラバイユ
ある時、私は、仕事中に、会社の階段を踏み外して、階段から転げ落ちたことがありました。全くの私の不注意なのですが、休日出勤などが重なって、疲れていたこともありました。
公衆の面前で、転んだりした時には、よっぽどの怪我でない限り、痛いよりも、その不恰好に転んだことの方が恥ずかしくて、バツが悪くて、慌てて、立ち上がったりしませんか?
私もその時は、まさにそんな感じで、ブザマに転んだことの方が恥ずかしくて、必死に立ち上がり、特に外傷もなかったため、「大丈夫、大丈夫・・」と、そのまま、終業時間まで働いて、家に帰りました。
後から思えば、その時に、救急車を呼んでもらっておけば、事は早かったのです。
しかし、外傷がなかったために、少し、足を挫いたくらいだと、私も軽く考えていたのです。
時間が経つにつれて、足は、みるみる腫れ上がり、家に着く頃には、ちょっと、かなりの痛みになっていました。夜になって、耐えきれずに、夫に頼んで、車で、救急外来のある病院に連れて行ってもらいました。
当時、娘は、まだ小さくて、一人、家に置いておくわけにも行かず、娘も連れて、夫に頼んで、家から比較的近い、パリの夜の病院に連れて行ってもらいました。
夜の救急外来というのは、こんなにも混んでいるものかというほど、次から次へと病人、怪我人がやってきます。とりあえず、受け付けだけして、順番を待っていました。
しかし、混乱している病院の中で、待てど暮らせど、私の順番は、回ってきません。途中、何度か、声をかけてみたのですが、「ハイハイ!」と生返事だけで、延々、2時間くらい待たされたでしょうか?
私も頭にきていましたが、私以上に腹を立てた夫が、医者を捕まえて、「かれこれ、もう2時間以上も待たされている!これ以上、待たせるなら、ここから電話して、救急車を呼ぶぞ!」と、半ば、脅しに近い抗議をしたら、ようやく、診てもらえたのです。
こういう時は、パリでは、黙っていたら、ダメなのです。黙っていたら、どんどん後回しにされますから、夫のように、「ここから救急車を呼んでやる!」は、いざという時に、パリでは、なかなか使える文言かもしれません。
もし、私一人だったら、いつになったことか、全くわかりません。
私は、骨折でもしているかもしれないと思い始めていたのですが、実のところは、打ち身から、私の足のふくらはぎには、血栓ができてしまい、ともすれば、骨折よりもややこしいことになりました。
それから、しばらくは、私は、毎日、血栓を溶かす薬を飲みながら、毎日、血液検査に通い、薬の量を調節しながら、結局、一ヶ月近く、仕事を休むことになりました。
足の痛みと腫れは、一週間もすれば、引くからと痛み止めの薬とクリームをもらい、その日は、家に戻りました。
これが、仕事中の怪我だったので、フランスの法律によるアクシダン・ド・トラバイユ(仕事中に起こった怪我や病気の場合は、100%保険が適用になります)に当たるから、24時間以内に保険の手続きの書類を送るように言われ、その書類には、その場にいた事故を目撃していた人のサインも必要になるため、夫が代わりに私の職場に行って、私の同僚のサインをもらってきてくれました。
ここが、フランス人だったら、大きな顔をして、休むところだと思うのですが、日本人の生真面目さを持っていた私は、一刻も早く、職場に復帰しなければ、と焦ってもいたのです。
ところが、医者は、なかなか、2週間くらい経っても、ドクターストップは解いてくれませんでした。
医者の方も仕事に行きたがる私を半分は、理解できない面持ちで、しまいには、「血栓がどんなに危険かわからないの? あなたは、死にたいの?」とまで言われ、さすがの私も、「死にたいのか?」とまで言われて、ようやく観念したのでした。
今の私だったら、もっと、図々しく、休んでいると思いますが、あの頃は、まだまだ、全てにおいて、気持ちにも余裕がなかったのです。
しかし、パリの救急病院の様子を垣間見て、できることなら、一生、お世話になりたくないと、心底、思わされたのでした。
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