2023年2月24日金曜日

16歳の高校生が授業中に教師を刺殺する異常な事件

  


 サン・ジャン・ド・リュズ(バスク地方)の高校で、授業中に16歳の少年が教師を刺し殺すという衝撃的な事件が起こりました。

 事件は、まじめで穏やかな校風で知られる静かな私立のカトリックの高校のスペイン語の授業中に起こったことで、事件を起こした少年は、授業中、突如として席を立ち、おもむろに出入口であるドアを塞いだのち、無言で教師に近付き、紙に包んで用意していた刃渡り20㎝ほどの大きなナイフを胸に突き刺したと言われています。

 現場にいたクラスメイトの証言によると、事件を起こした本人は、ひどく落ち着いていたものの、教室内はパニック状態になり、悲鳴が響き渡り、この少年がドアを開けるまでは、どうしたらいいかわからず、凍りついていたものの、彼がドアを開けるとともに、みんなが我先にと逃げ出し、慌てて、窓から飛び降りて逃げようとする生徒までいた模様です。

 彼は警察に身柄を拘束される前に学校で、「何ものかに憑依され、とりつかれて犯行に及んだ」というようなことをつぶやいていたそうですが、同時に、「これで人生がめちゃくちゃになってしまった」というようなことも話していたと言われています。

 少なくとも、これまでに、このスペイン語の授業の間にこの教師と生徒の間に問題が起こったことは一度もなかったと言われているため、ますます不可解な事件であるとも言えます。

 この少年は、明らかに知的で勤勉な少年で成績もよく(スペイン語以外)、いわゆる警察や学校からマークされるような不良少年ではなく、ビデオゲームや友人との外出など、同年代の若者として典型的な行動をしていたとクラスメイトは証言しています。

 しかし、一面では、他人との関係がぎこちなく、精神的に不安定な傾向にあり、うつ病の病歴があり、昨年10月に薬物による自殺未遂の、抗うつ剤を服用していたようです。

 このような、未成年、異常な行動による犯行の場合は、精神鑑定により、その責任能力が問われることになりますが、身柄拘束後の検察による1回目の精神鑑定によると「統合失調症型の精神疾患は認められず」、「急性精神疾患による脱力感も認められない」と診断されているものの、1年前からうつ病の要素があることも判明しています。

 どちらにしても、彼が自分自身で用意して、犯行に及んでいることは、明らかなことで、計画的な殺人事件として、捜査が進められていきます。

 この少年がいわゆる常日頃から素行の悪いいわゆる不良少年ではないことは、かえって事件を複雑にしているようなところがあり、犯行動機というものは、成績優秀な彼が唯一苦手な教科がスペイン語であったということくらいしか見当たらないのですが、まさか苦手な教科の教師だから殺すということも考え難いことでもあります。

 しかし、多くの人の目の前で行われた殺人は、冷静に、なんのためらいもなく、ひと突きのみで確実に致命傷をおわせたものであることはなおさら、恐ろしく感じられます。

 こうなると、被害者の53歳のスペイン語の教師の人となりが注目されるのですが、これまたちょっと聞いたことのないような評判のよい先生で、「並外れて献身的な人・・」、 「とても穏やかで親切でとても良い人で、誰からも愛されていた・・」、「彼女は休暇中であっても、少なくとも 80 ~ 90% の時間を学校での仕事に費やしていました・・」というおそらくフランスの学校ではなかなか耳にしない評判のいい先生だったようです。

家族関係も良好で、夫婦や家族も、とても仲が良かったとのことで、彼女の周囲の人々は、やるせない気持ちのやり場に苦しんでいるのではないかと思われます。

 いずれにせよ、これが公の場で行われたもので、事件の捜査は、この少年の精神障害についてが、掘り下げて行われることになります。

 この現場に居合わせたクラスメイトをはじめ、同校の生徒たちのショックは大きく、そのケアのための心理的サポートのためのユニットが設置されました。

 パンデミック後、パンデミックのためにうつ病が急激に増加した(特に若い世代)と言われていましたが、まさかこんな事件が起こるとは・・。彼が単なるうつ病だけであったとは、思えないのですが、彼の善悪の識別能力を妨げるものが病気として判断されるのか?それとも彼の人格として判断されるのか? 今後の捜査で少しずつ解明されていくと思います。

 しかし、私にとって、少なからずショッキングだったのは、この事件が起こったのが私立のカトリックの学校だったということで、娘の学校選びに際して、知人や先輩方から、「フランスではクズは限りなくクズ・・学校は絶対、私立にするべき!」と言われて、私も、たしかにそう感じて、娘は、小・中・高校と私立のカトリックの学校に通わせていました。

 この事件の起こった学校のように、静かで穏やかに見える学校で子供たちの顔つきも違っているような気がしたものですが、実際には、かなり進学校で、高校生の頃は、試験が終わるたびに、生徒たちは、慌てて成績の順位をチェックするために携帯に釘付けになると異様な話も聞いていて、うつ病で学校に来なくなっちゃった子がいる・・などという話もそういえば、聞いたことがあったのでした。

 とりあえず、私立の学校の方が安心と思っていた私にとって、この事件は、私立とて、例外ではない・・と思わされる事件でした。

 殺された教師やその家族はもちろんのこと、この少年の家族とて、どれだけ打ちひしがれているかと思うとやるせなくなります。


16歳の高校生 授業中に教師を刺殺


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