2024年7月11日木曜日

沈黙を破ったマクロン大統領が国民に向けて発表した手紙が波紋を呼ぶ

  


 選挙終了後、マクロン大統領の対応については、エリゼ宮を通して「国の安定をはかるため、現首相のガブリエル・アタル氏の辞表は受け取らず、当面の間、留任を依頼したこと」が伝えられていました。

 しかし、とりあえずは、次期首相が任命されるまで留任とはいうものの、事実上、空席のようなものでもあります。大きなイベントを前に混乱を避けたいのはわかりますが、あるべきものがないままの不安定な情勢は、それがおさまるまでは、「一体、どうなるんだろうか?」という議論が延々と続くことになります。

 そんな中、現在、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議出席のためにワシントンに滞在中のマクロン大統領は、フランスブルー及び、いくつかの地方紙を通じて、フランス国民に対しての書簡を発表し、それがまた大きな波紋を呼んでいます。

 マクロン大統領の手紙の内容は、第一に「どの政党も過半数に達していないため、誰も勝っていない」ということと、そのために、今後、「強固な多数派を構築するための対話が必用である」と国民に向けて訴えかけ、それが構築され、首相を任命するまでには、今しばらく時間が必用である」というような内容です。

 この中には、可能な限り最大の制度的安定を保証しなければならないため、また、国の主要な原則、明確で共有された共和主義的価値観、実用的で読みやすいプロジェクトを中心に構築され、選挙時に表明した懸念を考慮に入れなければならない・・と説明も加えて、薄めて?ありますが、一番、国民がこの手紙に反応しているのは、「マクロン大統領は、選挙の結果を受け入れていない」ということです。

 過半数には達していないとはいえ、一番、議席を獲得したのは、左派連合が勝ったのです。

 「フランス人が投票で選んだこと、つまり共和党戦線、政治勢力は自らの行動を通じてそれを現実にしなければならない」とも書いているのですが、どうにもすんなりと納得いかない内容でもあります。

 そもそも、誰も頼んでいなかった選挙を強行したのは、彼自身。その結果がたとえ、多数派が存在しないものであったとしても、優劣はついているのですから、どの政党も少数派であり、勝者ではないと彼が言ったとしても、この期に及んで、その話し合いを少数派の政党同士の話し合いに妥協案の構築を投げるのは、無責任だ!という声が上がっているのです。  

 もともと、二期目以降のマクロン大統領政権は、彼の政党が過半数を超えていなくなったことから、ぐらつきはじめ、年金改革などの際にも国民議会をすっ飛ばしての憲法49条3項を使用しての強行突破で、国内は大混乱しました。

 すでに国民議会に多数派がなくなったことは、今に始まった話ではありません。

 いつもは饒舌に国民に訴えかけることを厭わないマクロン大統領からしたら、このような重大な案件に対して、書簡で発表というのは異例のことです。たとえ、海外にいるとしても、同行している彼の陣営や記者たちも少なくないはず、映像で、彼自身の言葉で訴えかけることも、いくらでも可能なところがそれをせずに書簡で発表というのも姑息な感じがしてしまいます。

 なかには、この政党同士の話し合いを投げておいて、それに彼らが失敗するシナリオを国民に見せつけようとしているのでは?などと邪推する人もいます。

 X上などでは、「マクロン大統領は専制君主に変貌しつつある」とか、「気まぐれ!、権力の強奪、不機嫌…この国に住む国民のことなどまったく考慮していない!」とか、「オリンピック期間中にストライキを実施すれば、マクロン氏が動き、選挙後の権力維持のための悪ふざけを止めることができると思いますか?」など、彼を非難するポストが散見されています。

 しかし、彼自身、この国では彼への反感が本当に高まれば、X上の非難だけでは済まないことを身をもってよく知っているはずです。

 問題を先送りにしてよいはずはないのです。

 また、この手紙、問題を各政党に投げて置いて、「冷静かつ全員を尊重してこれらの妥協案を構築するために、政治勢力に少し時間を与える」と、あくまでも上から目線で時間がかかっていることを責任転嫁しているようなところも、国民のカンにさわる気もします。


マクロン大統領 国民への呼びかけの手紙


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