2020年9月28日月曜日

死にたいと思う時に・・

 


 

 私が娘を産んだ時、分娩台の上で赤ちゃんを見せてもらった時に、これは大変なことをしてしまった・・一人の人間が私から誕生してしまった・・これは、大変な責任だ!と改めて思ったのと同時に、この子がなんとか無事に育つまでは、何があっても死ぬわけにはいかない・・と思ったことを、なぜかその瞬間を切り取るようにハッキリと覚えています。

 その後、アフリカからフランスに引っ越し、フランスでの生活が落ち着くまでには、色々なことがあり、主人も仕事のことなどで、うつ状態になったりして、にっちもさっちも行かずに、まだ、赤ちゃんだった娘を抱えて、私にとっても、とてもしんどい時期がありました。

 心配した母が滅多にかけてこない国際電話をかけてきてくれた時に、私は、思わず母に、「死にたいけど、娘がいるから死ねない・・」とこぼしてしまったことがありました。

 日頃は、我関せずで、自分勝手でわがままな振る舞いの多い父も、それを母から伝え聞き、ちょっと離れたところから冷静に状況を分析し、「おまえは、多くを語らないが、芯が強く、自分の意思をはっきりと持ったプライドの高い人間だったではないか・・気を確かに持って、起こっていることを冷静に受け止め、毎日毎日の生活を過ごし、毅然と生きて欲しい」というような内容のファックスが届いたりしました。

 思えば、遠く離れた両親にも心配をかけてきました。

 死にたいと思うことと、実際に実行に移すまでに至るまでには、大きな隔たりがあるなと思います。しかし、そのギリギリのところで、綱渡り状態でいる人も実際は、少なくないのかもしれません。

 そんな時は、淡々と日常をこなしていくことで、いつの間にか死神は、消えてなくなっていくかもしれません。私の場合、具体的に死に方を探していたわけではなく、ついうっかり、「死にたいけど、死ねない・・」などと母に漏らして口にしてしまったことが、その後の生活を淡々と送っていくきっかけとなったかもしれません。

 しかし、あの時の母からの国際電話が私の気持ちを危険な方向に向かってしまうのを食い止めてくれたのかもしれません。

 そして、子供を置いては死ねないという、理屈ではなく、本能的とも思える気持ちが私を救ってくれたかもしれません。もともと、私は、あまり精神的に強い方ではありませんが、子供のためにという気持ちが、私を少しだけ強くしてくれました。

 先日、日本の女優さんが自殺したという話を聞いて、まだ小さいお子さんがいらっしゃるのに、なぜ? と思い、自分の過去の話を思い出しました。

 実際に、自らの死を選んで、実行に移してしまう状態は、病的状態だと思うので、理由はわかりませんが、病気だったと思うしかありませんが、私がつい母にこぼしてしまったように、何か、ふと人に弱音を吐いたりする瞬間があれば、それがわずかでもガス抜きになっていたかもしれません。

 自分の弱さを見せることが苦手な人は、苦しむことが多いと思うのです。時には、弱音を吐いたり、愚痴を言ったりすることも精神衛生上、必要なことです。

 「死ぬほど辛い」ことも、時にはありますが、実際に自ら死んでしまうことは、何より家族や身近な人を強烈に傷つける行為に他なりません。なぜ、気付いてあげられなかったのか?なぜ救えなかったのか? 子供にとったら、捨てられたような気持ちにもなるかもしれません。

 自分の死後、いかに家族や身近な人が傷つくかに思いが至れば、思いとどまれることもあるかもしれません。


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「フランス人の夫との離婚の危機」

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2020年9月27日日曜日

ジャック・シラク元大統領の一周忌


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 私がフランスに来た頃のフランスの大統領は、シラク大統領でした。まだ、フランスという国をよく知らなかった私にも、シラク大統領のカリスマ的な存在は、とても頼もしく、また長身で、スマートでどこかエレガントな姿も、フランスの大統領として、どこか誇らしく、たまに目にする彼の演説を大統領というものは、さすがに話も上手で説得力のあるものだなぁと感心しながら聴いていました。

 彼は、フランス国民に絶大な人気の大統領で、官僚出身のエリートでありながら、気取らず、庶民的な一面も見せつつも、威厳と気品の感じられる圧倒的なオーラがある人でした。

 一般庶民に嫌われている現在のマクロン大統領と違って、下層階級の人にも、とても人気のある大統領でした。シラク大統領からサルコジ大統領へと変わった時に、会社のお掃除のおばちゃんまでが、シラクとサルコジの大統領としての格の違いをとうとうと語り、夫人も含めてべた褒めしていたのをなるほどという気持ちで聞いていました。

 その上、シラク大統領は、大変な親日家でもあり、相撲が好きで、自分の愛犬に「スモウ」という名前をつけているとか、熱燗と天ぷらが好きだとか、ついには、京都に愛人がいるなどという噂まで聞いて(あくまで噂で、本当かどうかは知りませんが・・)、親日家の大統領の国にいて、どこか日本人の私としても、居心地が良いような気分でもありました。

 一年前にシラク大統領が亡くなった日は、追悼の意を表して、夜のエッフェル塔も消灯し、それから数日間、エリゼ宮には、お別れの記帳に訪れる国民の長蛇の列が続きました。これが一年後の今であったならば、あれほどの人出ができたでしょうか?(いや、きっと、フランス人には、コロナは関係なしに、やっぱり凄い人出になっただろうな・・)

 シラク大統領の葬儀には、フランス国民だけでなく、海外からも多くの要人が出席しましたが、それも今年だったら、無理だったかも・・スター性のある人というのは、亡くなるタイミングまで、図られているようだと思ってしまいます。

 モンバルナス墓地の彼のお墓には、今でも多くの人が訪れており、一周忌の昨日には、彼の肖像画が刻印されたジャック・シラク記念切手が50万部限定で発売になり、今度は、郵便局に行列ができています。

 愛国心旺盛なフランス人に人気のあった大統領のパワーは、その死後も光を放ち続けています。コロナやテロに脅かされている現在のフランスにシラクのような圧倒的なパワーを持つ存在がいてくれたらなぁと、切手を見ながら、ぼんやりと思うのです。

 日本では、中曽根元首相の葬儀に1億円近くの予算が計上されていることが炎上しているようですが、どれだけの国民が支持するのか、記念切手でも発売してみたらどいかがでしょうか?


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「フランス人のプライド」

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2020年9月26日土曜日

シャルリー・エブド元本社前でのテロ事件でパリ11区、俄かロックダウン

 Soldats déployés à Paris après une attaque à l'arme blanche le 25 septembre 2020 près des anciens locaux de Charlie Hebdo


 警察はおろか、軍隊が出動する光景は、パリでは見慣れた光景になりました。テロ・デモの暴動化・コロナウィルス・・その度に警察、消防、救急、軍隊とが出動し、街中に物々しいテープが貼られ、厳戒態勢が敷かれるのがさほど珍しくなくなっていることにパリ(フランス)が異常な状況であることを実感させられます。

 25日(金)の昼ごろ、パリ11区にあるシャルリー・エブド(風刺週刊紙)の元本社前で、休憩中であった数名がナイフで襲われ、うち2名が重傷を負うテロと思われる事件が起こり、フランスは、大騒動になっています。

 パリでは、社員が建物の前で数人がたむろして、休憩時間にタバコを吸っている様子は、どこでもよく見かける光景です。そんな平和な時間に、突如、訪れたこの事件にフランス中が震撼としています。

 3週間ほど前から、2015年に起こった同時多発テロ・シャルリー・エブド本社襲撃事件の共犯者とされる被告らの公判が始まっており、毎日のようにその様子が報道されていました。

 そんな報道を、私は、「もう5年も経ったんだ・・今ごろやっているのか・・フランスの裁判もずいぶんと時間がかかるんだな・・」などと、のんきに見ていましたが、この裁判の報道から、被害者、加害者側ともに様々な感情を揺さぶられている人が多くいたことは確かなようです。

 今回の事件の実行犯の一人は、犯行から1時間以内にバスチーユ広場付近で、もう一人は、1時間半後にパリ市内のメトロの駅付近で逮捕され、この事件に関わったと見られている5人が、別の場所で身柄を確保されています。

 この騒ぎに事件の起こったパリ11区では、近隣の125校・32000人の生徒が昼過ぎからロックダウン状態に・・近隣の店舗も閉鎖され、緊迫状態に陥りました。

 主犯は、18歳のパキスタン出身の男性と33歳アルジェリア人の男性で、被害者の身体だけでなく、頭から顔にかけてナイフで叩き切ろうとしており、その犯行の異常さをあらわしています。単に命を狙うならば、顔を切りつける必要はなく、そこには、風刺画でイスラム教徒を怒らせたシャルリー・エブドへの何らかのメッセージ性があったのではないかと私は勝手に思っています。

 しかし、シャルリー・エブド社はすでに2015年のテロ直後に移転しており、被害に遭った人もシャルリー・エブド社の社員ではなく、その場所が犯人にとってシャルリー・エブド社のシンボル的な意味を持っていたというだけで狙われたのかは現在のところは不明です。

 また、犯人の男性は、赤いスポーツシューズに黄色いTシャツという、これでもかというほどの人目に付きやすく、印象に残りやすい服装で、逃げ切るつもりがなかったのか?計画的な犯行としては、まことに杜撰な感じなことも不可解です。

 昨日は、コロナウィルスの感染が急激に増加しているフランスで、コロナウィルス関連のニュースがほとんど消えた異常な1日でした。

 今後、しばらくの間は、恐らくパリはテロ警戒体制に入り、少しのことでもいちいち大騒ぎになるのではないかと思っています。今回は、5年前のテロのような銃や爆弾を使った大規模なものではありませんでしたが、背景等がわからないため、当分は、緊迫した状況になることは間違いなく、昨夜も警察のサイレンの音が途切れることはありませんでした。

 5年前のテロの直後は、金曜日に事件が起こって、土日は怖くて多くの人が引きこもり、つまりはロックダウンのような状態、月曜日に仕事に行く際には、なんとなく怖くてドキドキしたのを覚えています。

 事件後、しばらくしてから、仕事中に会社の入っている建物に、数人の警察官が踏み込んできたと思ったら、会社の前のバス停に停車しているバスの中に不審物があるので、今から出来るだけ遠くに走って避難してください!と言われて、同僚と共に必死でパリの街を走った恐怖をまざまざと思い出しました。

 コロナウィルスの蔓延に加えてテロの恐怖、全く性質の違う恐怖が同時に存在するフランスは、どうなってしまうのだろうか?と底知れない問題を抱えたフランスの現状を思います。

 華麗なパリのイメージとはかけ離れた現実です。

 コロナウィルスによる再ロックダウンだけでなく、テロによるロックダウン状況が起こることは、想定外でした。


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「フランスのテロの報道と対応」

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2020年9月25日金曜日

新規感染者1万6千人超えのフランス 全仏オープン・ローランギャロス2020は継続されるか?



 フランスの新規感染者数が1万人を突破したのは、9月12日(土)のことなので、それから、約一週間後に1万3千人を突破し、また一週間も経たないうちにさらに3千人増加の1万6千人も突破しました。

 一週間弱の間に3千人ずつ増えていく感染者数に、もはや、数字の感覚が麻痺してきました。昨日は、新規感染者数の大幅増加だけでなく、ICU(集中治療室)の患者数も1000人を突破し、ロックダウン解除以降の記録を伸ばしています。

 一昨日に政府から発表された69の地域の警戒地域指定や、特別警戒地域、最大特別警戒地域に対する行動制限政策は、大きな波紋を呼び、特に飲食店閉鎖が決まったマルセイユでは、飲食店経営者の怒りや、顧客側もレストランが閉鎖される土曜日の前に駆け込みで外食を楽しむ人が増加しています。

 ロックダウンが決まった際にも前日の夜には、まるでカウントダウンを楽しむかのように、レストランやバーなどが異常に賑わった時と同じ状況が再び起ころうとしています。

 思えば、ロックダウン解除後も最後まで、なかなか営業を許可されず、テラスのみの営業からようやく開店できるようになっていた飲食店が、どこよりも先に再び営業停止になることは、大変な憤りであり、大打撃であると思われます。

 ジャン・カステックス首相は、この飲食店の経営者の怒りと、なぜ?レストランだけが営業停止になるのかという質問にテレビ番組で、「公共の場所でどうしてもマスクをすることができない場所であるから・・」との理由を述べていましたが、駆け込みで外食を楽しんでいる人々は、レストランが閉鎖されれば、別の方法を探すしかない・・と、なんとか人と集おうとする懲りない様子をうかがわせていました。

 そんな中、フランスでは、9月27日(日)には、全仏オープンテニス・ローランギャロスが始まります。例年は5月末から6月の初旬に開催されるこの大会もコロナウィルスの影響で、延期されていました。

 すでに予選は、始まっていますが、27日(日)からのトーナメントは、今のところ、開催予定に変わりはありませんが、大会の行われるイル・ド・フランスの警察からの勧告で、トーナメント中のローランギャロスのスタジアムにアクセスできる観客の数を1000人に制限しています。

 5月末に延期した段階で、全仏オープンテニス協会は、強固に観客を入れての開催にこだわっており、チケットは、すでに7月からオンライン予約が開始され、今年は、当日券は発行されない予定です。

 一度、錦織選手を応援に行こうかと、チケットを取ろうとして、びっくり!ローランギャロスのチケットは、155€〜190€・・高いものだと300€を超える高額で、断念しました。

 協会は万全の対策を取っていることをアピールしており、選手は到着時及び72時間後にPCR検査を行うことが義務付けられ、以後5日おきに検査、指定されたホテルで隔離されています。

 つい先日、延期されていたツールドフランス(自転車のロードレース)が開催されて、終了したばかりですが、同様に延期されていたローランギャロスの開催。両者とも、当初の予定の日程時以上に感染状態が悪化した状態での強行開催に結果論ではありながら、より悪い結果をもたらすことばかりのタイミングの悪さがもどかしいばかりです。

 おまけにローランギャロスは長いこと、屋根の無い、クレーコートで雨が降るたびに試合が中断する事態に悩まされてきましたが、皮肉なことに今年からセンターコート「フィリップ・シャトリエ」には、開閉式屋根が設置されたばかり・・。

                          

            ローランギャロスのセンターコート「フィリップ・シャトリエ」


 屋内が敬遠されるこのタイミングに長いことできなかった開閉式屋根付きのセンターコート。コロナウィルス感染では、ことごとく、全てが裏目に出ているフランスでは、ローランギャロスのセンターコートの屋根までもがタイミングの悪いことに、嫌な予感しかしないのです。


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「ことごとくフランス人の習慣が裏目に出ているコロナウィルスの感染拡大」

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2020年9月24日木曜日

フランスの感染拡大対策 69の地域を警戒地域に指定 マルセイユはレストラン・バー営業停止へ


       Coronavirus. Les zones d'alerte en France


 フランスでは、ここ数週間のコロナウィルスの感染急拡大を受けて、ようやく政府が、具体的な対策を開始することを発表しました。

 フランスの新規感染者数は、昨日も1万3千人超え(13072人)、死者、入院患者、ICUの患者も確実に増加し、地域によっては、集中治療室の占拠率が危うくなり、病院内での他の病床との調整を開始している状況です。

 昨日、厚生大臣のオリビエ・ベランは、ロックダウンの第一段階とも見える感染拡大を阻止するための地域ごとの行動制限政策を発表しました。

 感染発生率(1週間での10万人あたりの陽性症例数)、陽性率、クラスター、有効R(感染した個人が感染する人数)、コロナウィルス患者による集中治療室の占拠率等を考慮して、フランス全土のうち、69の地域を警戒地域に指定しました。

 さらに、これらの数値からみて、より深刻な状況に至っているパリ、ボルドー、リヨン、トゥールーズ、ニース、サンテティエンヌ、レンヌ、モンペリエ、リール、ルーアンとグルノーブルの11の地域を特別警戒地域に指定しました。

 特別警戒地域では、今週の土曜日から1000名以上の集会禁止、地域の主要イベント禁止、ジム等のスポーツ施設の閉鎖、公共スペースでの10人以上の集まり禁止(冠婚葬祭、家族・友人の誕生日、パーティー等)そして、来週の月曜日からバーの22時閉店が義務付けられます。

 そして、さらに感染状況の深刻なマルセイユ、グアドループは、最大特別警戒地域に指定され、特別警戒地域での制限に加え、レストラン・バーの営業停止が義務付けられました。

 これには、マルセイユのレストラン経営者たちは、大変な怒りと憤りを示しており、「自分たちは、最大限、衛生管理をしながら営業しているし、感染拡大は、レストラン・バーだけから、起こっているわけではない!これは、市民全体の習慣や危機意識の問題で、公共交通機関や他の商店が営業しているのに、レストランやバーだけが営業停止になるのは、納得いかない!」と、突然の政府の発表に怒りを露わにしており、フランスのツイッターのトレンドには、一気に「マルセイユ」が上位に上がりました。

 実際に、一般の商店、博物館、映画館、教会等は、閉鎖の対象にはなっていません。しかし、これらの施設に関しても、厳重な衛生管理がされていない場合は、閉鎖とされています。

 これまでのコロナウィルスに関しての報道を見ていると、クロロキン(マラリアの治療薬)をコロナウィルスの治療薬に有効であることを発表し続けて、一時、ヒーロー扱いされていたマルセイユ大学のラウルト教授の影響もあり?やたらとマルセイユは、パリと張り合っているようなイメージがありましたが、ここにきて、マルセイユが格段に感染状況が悪化してしまいました。(多くのパリジャン・パリジェンヌがバカンスで南方に行ったことも影響していると考えられます。)

  ロックダウン解除以来、「コロナウィルスと共に生きる!(Vivre avec le virus!)」と強気の政策を通してきたフランスですが、たしかに全てを禁止して、引きこもってばかりはいられないのは、たしかですが、そのウィルスと共に生きる生き方に誤りがあったことを認めざるを得ない状況になっています。

 いみじくも、マルセイユのレストランのオーナーが怒りながら語っていた「感染拡大は、レストランだけで起こってるわけではない!これは、国民の習慣、危機意識の欠如が起こしているものだ!」と言っている内容が現実であると考えられます。

 だからと言って、ここまで感染が拡大してしまった現状況では、その中でも、どうしてもマスクをすることができない飲食店に影響が出るのは、致し方ない話です。

 出来るだけ、多くの商店や施設を閉めなくて済むようにするには、フランス人がもっと危機感を持って、生活習慣を変える必要があるのです。フランス人は、興奮すると収集がつかなくなり、家族や友人の集まりは例外と思っているようなところがあります。

 実際に、ヨーロッパの第一波では、同程度やそれ以上に感染状況が深刻であったイタリアやイギリスなどの国々は、綱渡りを続けながらも、現在は、フランスほどの深刻な状況には陥ってはおらず、なんとかコロナウィルスとの共存の道を手探りしながら、生活しているのです。やりようによっては、感染を抑えながらの生活は可能なのです。

 今回の特別警戒地域での様々な制限については、今後、一週間ごとに見直され、最低でも15日間は続けられるということです。

 この政府に対する制限には、今のところ、罰則は、発表されていませんが、この政府の提示した特別警戒警報を国民がどれだけ重く受け止め、自らの行動を制限できるのか?この制限により、効果がない場合は、この先、フランスがさらに深刻な状況に陥ることは、避けようがありません。


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「ことごとくフランス人の習慣が裏目に出ているコロナウィルスの感染拡大」

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2020年9月23日水曜日

最近のパリのメトロ

 


 コロナウィルスの感染拡大が始まって以来、パリのメトロ、バスには、できるだけ乗らないようになりました。ロックダウンが解除になって以降ですから、5月からの夏にかけての気候の良い時期でもあり、それなら、それで、なんとかなるもので、できる限り、移動は、自転車か徒歩で、かなりの長距離でも移動するようになり、いたって健康的な生活になりました。

 それでも、どうしても自転車や徒歩では厳しい時には、メトロに乗るのですが、今日、久しぶりにメトロに乗って、ロックダウン解除当時の緊張感がなくなっていることに気付いて、びっくりしたのです。

 ロックダウンが解除になって、初めてメトロに乗った時は、私自身もドキドキで、駅やメトロの中に貼られた物々しい色のテープや人と人との間隔を取るための床や座席に貼られたステッカーなどを見つめながら、恐る恐るメトロに乗ったのを思い出します。

 スリやひったくりなど、日常も決して治安が良いとは言えないパリのメトロは、いつでも気を抜けない乗り物ではありますが、特別な緊張感が加わった気持ちでした。

 しかし、今日、久しぶりにメトロに乗ったら、また、別の意味で、びっくり!車内に乗り込んだ時に、やけにみんなが座っているな〜と思ったのですが、気がつけば、一人おきに座るように座席に貼られていたステッカーがなくなっており、なかなかの人混み状態です。

 緊張感というものは、そうそう長く続くものではありませんが、だからこその注意喚起。たとえ、守らずに間隔をおかずに座席に座る人がいたとしても、それなりに注意喚起には、なっていたのだ・・と、改めて思いました。

 路線によっては、座席のステッカーは貼られたままのようですが、この感染拡大が急上昇しているフランスで、ステッカーを外してしまう路線のあるRATP(パリ交通公団)の緩み方。これがフランス全体の傾向なのでしょう。

 おまけにパリのメトロにトラブルはつきものです。今日も駅で車内が真っ暗のまま止まっているメトロに乗るべきか否か少々、迷いながらも、ここで足止めを食いたくない・・いつ、いきなり発車するかもわからない・・とりあえず、車内に乗って待とう・・と乗り込むと、乗客は、慣れたもので、皆、平然と車内で待っています。

 ようやく動き出したメトロは、途中、何回も駅と駅の間で止まったり、車内が真っ暗になったりを繰り返して、なんとか無事に目的地に到着しました。こんなことは、いつものことなので、パリのメトロとしたら、普通のことなのですが、コロナウィルスの蔓延している中、車内に長時間、閉じ込められたら・・と思うとやはり恐怖です。

 いくら自転車を利用する人が増えたとはいい、極端にメトロの利用客が減ったわけでもありません。ソーシャルディスタンスのためのメトロの増便は追いつかないのかもしれません。

 かと言って、自転車にも危険がないわけではなく、ひとたび自転車で出かければ、今度は、自転車の盗難の心配があります。なんと、フランスでの年間の自転車の盗難は、40万件と言います。盗まれたら最後、まず見つかることはありません。

 だいたい、フランスで盗難事件が起こって、警察に駆け込んだとしても、よほどの凶悪事件でない限り、警察は被害届を受け付けるだけで、犯人を探すことはありません。

 そんな中、先日、うちの娘がメトロで奇跡的な体験をしました。

 駅で、お財布を落として、後ろから歩いてきた人が、「落としましたよ・・」と、お財布を拾って、渡してくれたのだそうです。スリやひったくりの横行するパリのメトロで、落としたお財布を「落としましたよ・・」と渡してくれる・・こんな人もいるんだ・・こんなこともあるんだ・・と、一生分の運を使い果たしたかのごとく驚いて帰って来ました。

 スリにあってもビックリしますが、拾ってもらうともっとビックリすること自体に、いささか、苦笑してしまいますが、それが現実。とにかくも、盗難、コロナ・・と危険ばかりのメトロにも、こんな奇跡的なこともあるんだと、住みづらいパリでのわずかにほっこりとした出来事でした。


<関連>

「ロックダウン以来3ヶ月ぶりのパリのメトロ」

https://rikakaigaiseikatsu.blogspot.com/2020/06/blog-post_85.html

「パリで時々、目にする光景」
https://rikakaigaiseikatsu.blogspot.com/2019/06/blog-post.html

2020年9月22日火曜日

ブリヂストン・フランス・べチューン工場閉鎖 ②

L'usine Bridgestone de Béthune


 ブリヂストンがフランス・べチューン工場閉鎖を発表して、1週間が経ちました。

 ブリヂストンの発表同日にフランスのボルヌ労働相とパニエリュナシェ経済閣外相は連名で、「ブリヂストンは、欧州内の別の工場のためにべチューン工場への投資を長年怠ってきた、工場閉鎖は全く同意できない」と発表し、その姿勢を継続し、マスコミを巻き込んで、なんとか、工場閉鎖を回避する圧力ともいえる態度で従業員を守ろうとする姿勢を示しています。

 彼らが偽善ではなく、このようなことを主張し続けるのであれば、正気を疑いたくなるような内容です。

 ブリヂストンのこの工場は、自動車用の小口径タイヤを生産しています。10年間で40%生産性が低下したこの工場は、ヨーロッパの中でも最も効率の悪い工場なのです。付加価値の高い大口径タイヤを製造するための投資をこの工場ではなく、同社がポーランドの工場に行ったことをフランス政府は避難しています。

 そして、これから、フランス政府の援助を受けて、工場に再投資し、人を再教育し、工場存続することを要求しています。

 普通、会社が投資を考える場合、最もその効率の良い場所を選ぶのは、当然のこと、フランスのべチューン工場が投資対象に選ばれなかったのには、それなりの理由があってのことです。

 ヨーロッパのタイヤの品質は、格安なアジアの製品には決して劣ることはないなどと言っていますが、実際に売れないのだから、仕方がありません。極端に上質な製品は別として、この工場の製品が格段、アジアで作られる製品に比べて圧倒的に秀逸なものであるわけでもなく、コストや生産性を考えれば、工場は、より安くより良い製品を作れる場所にシフトしていくのは、当然のことです。

 ヨーロッパのタイヤ産業は、長いこと窮状に瀕しています。フランスでは、過去10年間に、Clairoixにあるコンチネンタルの工場、アミアンにあるGoodyearの工場、昨年には、La Roche-sur-Yonにあるミシュランの工場が閉鎖しており、会社全体としての生き残りは必死な問題です。

 ブリヂストンは、フランスで規定されているとおりのペナルティとも言える莫大な金額を従業員に支払い、従業員に対しても誠実に対応すると言っているのです。

 フランスの政府が一時凌ぎのために、この将来性のない工場に、国としてまで投資すると、正気で言っているのであれば、まことにヤバい国であるとしか言いようがありません。

 ここで引き合いに出すことではないかもしれませんが、カルロス・ゴーンが日産を再建した時にした人員削減は、数万人単位の削減でした。数でのみ比べられることではありませんが、863人の工場の閉鎖に政府までも乗り出して抵抗するフランスの資本主義とは、何なのでしょうか? これは、資本主義ではなく、全く自分勝手なご都合主義でしかありません。

 しかし、これが、あくまでも政府、政党の偽善であり、人気取りに利用していると見ている人もいます。これが、偽善で、あくまでポーズであるとしても、それはそれで、なんとも汚いやり方です。

 多くのマスコミを引き連れて、大臣が二人も現地に及んで、労働者を守る声明を発表して、ブリヂストンに圧力をかけていますが、これは、「ひとたび、フランスで会社や工場を作って、労働者を雇った場合は、ヤバいことになる」と全世界に向けて発信しているようなものです。

 こんなことを続けていたら、今後、外国企業は、フランス進出には、二の足を踏むようになるでしょう。


<関連>

「ブリヂストン・フランス・べチューン工場閉鎖 ①」

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