トゥーサンの時期の墓地の近くのお花屋さんの店先 |
今はトゥーサン(万聖節・諸聖人の祝日)のバカンスで、フランスでは皆がお墓参りをする時期です。我が家にとって、このトゥーサンのバカンスは、夫の命日が近いタイミングでもあり、もう10年以上が経った今でも季節的にあの頃のことを思い出してしまう複雑な季節でもあります。
当時、ちょうどトゥーサンのバカンスが終わった翌日に、夫は職場で倒れて入院し、その後、数日のうちに亡くなってしまったので、本当に急なことで、茫然自失の状態でした。娘がバカンスで学校が休みの間は、水族館に行ったり、ムードンの森に栗拾いに行ったりと、ごくごく普通の生活を送っていた私たちにとっては、晴天の霹靂でした。
それまでも、何回か夫が入院したことはあったので、まさか、そんなことになるとは思わず、入院した日も夫は夜、家に電話をかけてきて、「2〜3日入院するから、娘を学校に連れて行ってあげられないからお願いね・・」と言っており(それまでは、朝、夫が娘を学校に送り、夜、私が迎えに行っていました)、仕事をしながら、朝も夜も一人で送り迎え・・シングルマザー生活大変だ・・くらいに思っていて(結局は、それ以来、本当のシングルマザー生活に突入してしまったのですが・・)、「平日は病院には行けないから、週末、必要なものを持って病院に行くから・・」と話していました。
週末になって、娘を連れて病院に行くと、夫は集中治療室に入っていたために、娘はまだ集中治療室に入れてもらえない年齢ということで、夫に会うことはできず、「夫の方も一般病棟に移れたら、またすぐ会えるのだから・・」と話していました。
それが翌日、再び病院に行くと、容態は前日より悪化しており、お医者さんから、「命の危険がある」と告げられました。命の危険があると言われて、真っ青になり、とりあえず会社の上司に電話をして、しばらく会社を休ませてもらうことにしたのですが、私は会社の入り口の鍵を預かっていたので、それを誰かに渡さなければならず、翌朝、朝いちで会社に行って、同僚の一人に鍵を渡し、家に帰るとすぐに病院から「危篤だからすぐ来てほしい」という電話が入りました。
慌てて、タクシーを拾って、病院に着いた時には、もう夫の息はなく、彼の最期には間に合いませんでした。「お医者さんから解剖をさせていただけたら・・しかし、強制ではありませんが・・」と言われて、今回ばかりは、こんなに急に亡くなってしまって、全くわけがわからず、納得もできなかったので、迷うことなく、「是非、お願いします」と答え、できることなら、自分でやりたいくらいだと思いました。
その後、娘を学校に迎えに行って、病院に連れてきたことまでは覚えているのですが、その後、数日のことは詳しくは覚えていません。
葬儀の手配等は、彼の息子たちが全部やってくれたので、とどこおりなく終わり、夫のパソコンの裏に貼り付けてあった、簡単な書き置きのようなものの中に「お墓は家から一番近いところにしてほしい」という一文があったため、近所の墓地に埋葬することになりました。
夫の両親のお墓は、彼がお金を出して何やら立派なお墓を義理兄夫婦の家の近くにたてていたのですが、なぜ、そこには一緒に入らずに、家の近所に別にしてほしかったのかは、わかりませんが、そんなことはずっと先の話だと思っていたので、彼と直接、そんな話をしたことはなかったのです。
市営墓地なので、年契約で場所を借り取る感じなので、我が家の場合はたしか、とりあえず30年契約にしたと思います。棺とともに霊柩車に乗って、墓地に着くと、もう場所が用意されていて、思ったよりもずっとずっと深い穴が掘られていて、土葬というものが初めてな私にとっては、それもかなりショッキングでした。
私は普段はあまり感情表現が激しい方ではないのですが、その時ばかりは声をあげて大泣きしたことは、覚えているのですが、娘に言わせると、「ママの泣き声は、墓地の塀の外にまで聞こえていたと思うよ・・」と言われたので、私が取り乱したことは、娘にとってショックだったようで、後になってみると、娘には申し訳なかったと思います。
周囲の風景はなに一つ変わることはないのに、私はもう半分、あちらの世界にいるように現実感がなく、私がどうにかこちらの世界にひき戻されたのは、娘を一人で育てていかなければならないという現実でした。
深い深い穴に埋められた棺の上には山盛りの土が盛られ、その上にお花が山のように盛られましたが、墓石を置くのは数ヶ月経って、少し土が沈んでからの方がよいとのことで、数ヶ月後に、墓地のそばにある墓石屋さんで墓石を注文し、とりあえず、私が入る場合も考えて、二人分の名前を入れて、ちょうどいいスペースをとって名前を刻んでもらいました。
まさかフランスで墓石を買うことになるとは・・思ってもみない大きな買い物でした。フランスでお墓を買う日本人もそうそういないだろうな・・とぼんやり思いました。
夫が眠っている墓地は、家から歩いて20分ほどのところにあるのですが、亡くなってすぐの頃は、毎週のように行っていたのですが、今では、こんなに近いのに、滅多に行くことはなく、トゥーサンの時には必ず行くようにはしているものの、それでも年に数回です。
以前は、お墓中がお花に包まれるような感じだったのですが、どうやら、ここ数年、ハロウィンにおされているのか、お花が減ったような気がします。
それでも、お墓の上に乗り切らないほどのお花が乗っているお墓などを見ると、なんとなく、ほっこりさせられたりもします。
しかし、私自身は、お墓にはあまりこだわりはないので、なんなら、海にでも撒いてくれてもいいけど・・と思っているのですが、娘には、「その時に一番簡単な方法でいいよ・・」(フランスにいる時に死んだら、フランスのお墓に、日本にいる時に死んだら日本の実家のお墓に・・)と頼んでいるのですが、どちらにしても人ひとりが亡くなるということは、お墓だけではなく、大変な手続きが必要で、できるだけ迷惑をかけないように、今のうちから、できるだけシンプルに済むように身辺を整理しておかなければと思っています。
あれから、もう長い時が経ちましたが、「もしも、夫が生きていてくれたら・・」と何度思ったかわかりませんが、結局、今日もお墓に行って、一人で夫とそんな話をしながら、私や娘の近況報告をしてきた1日でした。
パートナーのいらっしゃる方、まだまだ先のことだと思っても、一応、話しておいた方がよいことかもしれません。
フランスのお墓
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