現代映画の礎を築いた最後の巨匠といわれ、世界三大映画祭の全ての最高賞を受賞しているフランスの映画監督ジャン・リュック・ゴダールが91歳で亡くなりました。
このニュースは、単に彼の死が悼まれるだけではなく、彼の死が自らスイスで安楽死の道を選んだものであったことが家族から発表されたことから、また別の意味でも注目されています。
2014年のインタビューにおいて、すでに彼は、自身が死について、安楽死(自殺幇助)に頼る可能性があることを「私は何が何でも生き続けたいという気持ちはない。あまりに具合が悪いと、一輪車で引っ張られ続けてまで生きるつもりは全くない」ときっちりと語っています。
これは彼の確固とした死生観は、彼の作品にも度々、表現されてきており、「物事が終わるときにこそ、意味がある」というセリフなどにも象徴されています。
現在のフランスでは、安楽死は認められていないため、彼(フランスとスイスの二重国籍保持者)はスイスの自宅で死を迎えるために出国していました。
スイスとて、無条件に安楽死が認められているわけではなく、医学的倫理規範によって規定された一定の条件の下で受動的安楽死や自殺幇助などが認められていますが、一方では、利己的な動機により、致死物質を提供するなど誰かの自殺を幇助した者は、5年以下の拘留または金銭罰に処されます。
今回の彼の医療報告書の条件によれば、「複数の身体障害のため」とされています。
スイスでは近年、安楽死(自殺幇助)は年々増加しており、2003年には年間187件だったものが、2015年には965件、2021年には約1,400人がスイスで安楽死を迎えています。
フランスでは、マクロン大統領が、彼の死の情報に照らして、6ヶ月間にわたる「終末期に関する市民会議の立ち上げ」を発表し、あらたな意味をもたらすことになりました。この会議の立ち上げは、2023年末までの新しい「法的枠組み成立」の可能性を視野に入れています。
倫理委員会としては、厳格な規制のもとであれば、積極的な臨終の支援も考えられるとしています。
2021年6月の段階で、国家諮問倫理委員会(CCNE)はすでに、「倫理的に、ある厳しい条件のもとで、積極的な死の援助を適用する方法がある。近年、いくつかの国がそれぞれの法律を改正していますが、フランスは何の対策もとっていない」と問題提起していました。
国家諮問倫理委員会は、「死の象徴的・精神的表象、恐怖、不安が一体となった終末期問題が極めて複雑であること」を強調しており、緩和ケアにおける公衆衛生対策を強化し、各人の「早期の意思表示」をより促すとともに、深部継続鎮静を専門病棟以外にも拡大することを求めています。
委員会は、新法は安楽死や積極的臨終支援というテーマだけに焦点を当てるべきでないと考えており、緩和ケアへの取り組みを加速させることを提唱しています。
フランスの終末期医療を見るに、どこまでも生に固執する感じは日本に比べると薄いような気もするのですが、どのように自分の死を迎えたいのかは、病気に罹患した場合にどこまでの、どのような治療を受けるかにも関わっていることであり、常日頃から、自分がどのように死にたいか、どのように生きていたいかについて、常に考え続け、ある程度、意志は固めて、見極めていることが必要なのだと思わせられます。
いずれにしても、彼は、映画だけではなく、自分の死をもってして、世界にメッセージを残してくれたさすが、世界最高峰の巨匠でした。
フランスは、今後、スイスやベルギー、最近ではスペインなど、非常に厳格な枠組みの中で安楽死(自殺幇助)を認めている国々と肩を並べることになると宣言しています。
ジャンリュック・ゴダール 安楽死
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