ウクライナでの戦争が始まって、そろそろ半年近くなります。物価がどんどん上昇したり、スーパーマーケットの棚からひまわりオイルに始まって、あらゆる食用オイルが消えたり、出てきたと思ったら、値段が急上昇しているにもかかわらず、飛ぶように売れたりと、今まで見たことのなかった現象が起こっています。
ここ数ヶ月の間、スーパーマーケットに買い物に行くと、マスタードの棚がガラガラになっていることがあって、最初は、「え??出し忘れてる??」(フランスの場合、そういうこともあり得る)と思ったものの、しばらくすると、また、置いてあるけれど、今度はスカスカで・・、次に行くと「えっ??また、ないの?」ということが続いて、ようやく、今、フランスではマスタードが不足していることに気がついたら、「マスタード不足」という報道が始まって、これからさらに買い占めが始まるのでは・・と案じています。
フランスで美味しい食べ物といえば、バターやチーズ、生クリームなどの乳製品やパンやお菓子などを思い浮かべる人が多いと思いますが、私がフランスに来て以来、目覚めた食品の一つは、マスタードでもあります。
色々なマスタードを試してみると、マスタードというものは、それぞれに香りといい、味わいといい、なかなか奥深く、美味しいマスタードに出会うとちょっとテンションがあがります。
とはいえ、私自身は、普段、家で食事をしている限り、和食あるいは、日本の食卓に近い食事に偏りがちなこともあり、それほどマスタードを使うわけではないのですが、フランス人の夫などは、かなりマスタードを消費します。
とにかくステーキなどにはもちろんのこと、茹で野菜などにマヨネーズの代わり?と思うくらいにつけて食べ、食後もいじましく、マスタードを舐めたりするのに最初はびっくりしたくらいでした。(なぜか、彼はマヨネーズを身体に悪い食品として、目の敵のように思っているので、マヨネーズも好きな私としては、ちょっとムッとするくらいでした)
しかし、やはり、食べつけてみると、マスタードというものは、なかなか味わい深いものでもあり、習慣化すると、欠かせない食品でもあります。
おそらく、フランス人にとって、マスタードは日本人にとってのお味噌とかお醤油のような存在で、普通にそのまま何かにつけて食べる以外にもサラダのドレッシングに使ったり、フランス料理のソースにも結構、使ったりするので、一般のフランス人家庭は相当量のマスタードを消費していると思われます。
スーパーマーケットに行っても、マスタードの棚は種類がいっぱいで、どれだけフランス人がマスタードを使用しているかが垣間みることができます。考えてみれば、スーパーマーケットにおける場所の割き方をみれば、日本に比べてどれだけ違う食品群に場所を割いているのかで、フランス人の食べ物の傾向がわかります。
このマスタードもそうなのですが、バター、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品の多さにも驚きますが、チョコレートの多さもまた、驚くほどです。
今回のマスタード不足の原因は、マスタードシードの不足によるもので、フランスのマスタードはフレンチマスタードといいながら、マスタードシードの9割はウクライナとカナダからの輸入品なのだそうで、ウクライナからのものが入らないばかりでなく、カナダからのマスタードシード(フランスのマスタードの8割がカナダ産のマスタードシードを使用)も昨年のカナダでの干ばつの影響で輸入がストップしてしまったことによるものなのだそうです。
パリ・マドレーヌにあるフランスを代表するマスタード「アモラ・マイユ社」のメゾン・マイユでは、数量限定販売が始まっており、「1家族につき1瓶のみの販売とさせていただきます」と書かれており、日替わり銘柄はすぐに完売状態。無いとなると買っておきたくなる消費者心理も後押ししているのかもしれません。
フランス国内では圧倒的に生産量が多いブルゴーニュ地方では、近年停滞していたマスタードシードの生産農家はこの作物を放棄し、より収益性の高い作物への切り替えを余儀なくされていたものの、一転して、このマスタードシードが金を生む産物に代わり、増産体制に切り替えています。
輸入に頼ることができなくなった小麦やひまわりや菜種などの生産を増加させたのと同時に、また、マスタードシードもフランス国内での生産を増加させる方向に切り替わっています。
フランスは食料自給率がかなり高い国だと聞いていましたが、それでも、こうやって、食料不足の問題は起こってくるのです。
パンデミックや戦争などが起こって、流通がままならなくなり、頼るは自国生産、自分たちの食べるものは自分たちで作るということになるのは、どこの国も同じです。本来ならば、気候や得意分野に応じて、世界で協力し合えることが望ましいのでしょうが、この不安定な情勢では、自国自衛は食糧においても同じなのです。
フランスのマスタード不足
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